吾輩はトラネコなり。
コタツは好きだが、日本の蒸し暑さにはそれほど強くないのだ。
エアコンは命綱。なのに、最近は停電のウワサをよく耳にするのだ。
なぜだ。なぜなのだ。飼い主はどうしたらいいのだ。誰か、誰か、教えてはくれまいか…。
ニュースや気象情報を見ながら「“数十年に一度”という言葉、毎年聞くなぁ…」と思っている人も多いのでは…?こうした大きな自然災害の後には停電が発生しやすいといわれています。さて、停電に対して私たちはどう備えるべきなのか、地域や研究機関などで活躍するキーマンに伺います。
今回は、2019年9月5日に発生した台風15号による停電が発生した千葉県南房総市大井地区(約110世帯250名)の芳賀裕地区長に聞きました。芳賀さんは、豊富な電力知識から通称「電力おじさん」と呼ばれています。
この前編では、9日間の停電を乗り切った地域の様子や、芳賀さんたちが行った各ご家庭へのサポートについてご紹介します。
史上最強クラスの台風が上陸!当時の状況は?
── 台風15号が上陸した時の様子についてお聞かせください。
私を含む地域の自主防災のメンバーは、台風の接近に備えて、9月8日から「みねおかいきいき館」(地元の体験学習施設で食事提供も行っている)に集まっていました。すると、9日午前1時頃、突然テレビの映像が消えて「あ、停電がきた!」と。これがスタートでした。被害状況を把握するために、見回りをしたところ、倒木によって電線が切れている箇所がいくつも確認されましたので、「これはかなり大規模な停電になるな」と思いました。
── 電力の復旧についての見通しは?
電力会社のウェブサイトで停電エリアや復旧の見通しが掲示されていて、当初この地区は「3日程度で復旧する」となっていました。私は倒木等の被害状況で実際に目の当たりにしてたので3日は難しいなと。実際には9日間かかりましたから。
9日間って…!
台風でそんなに長く停電になるんか…!想像もしたことなかったぞ。
── 停電によって皆さんが最も困ったのは?
通信関係です。テレビやラジオが使えなくてもスマホや携帯電話があれば情報を得ることが出来ます。でも、スマホや携帯が使えないということは、自分の安否情報を家族や知人に伝えられなくなってしまうわけで、これはとても苦しいことです。現代の社会システムがいかに脆弱なものか、思い知らされましたね。
── 他の電化製品も使えなくなりますね。
あの台風が来るまで、私は「この地域は田舎だから、みんな薪と釜でご飯は炊けるし、洗濯は洗濯板でできるだろう」と思っていたんです。ところが実際には、そうできる人は多くありませんでした。
みんな電気炊飯器がないとご飯は炊けない。かといって、高齢者がカップラーメンで何日も過ごすのは厳しいですよね。高齢者が多い地域だからだと思うんですが、日ごろの食生活を変えられないんです。体調を崩す人も出てきます。やっぱり炊いたご飯が食べたい。野菜を食べたい。だからほとんどの人がご飯を食べていたと思います。洗濯だって手で洗った経験がないから、車で小一時間かかるコインランドリーまで通う人もいました。
── やはり我々の生活は電力に依存しているのですね。
科学者で随筆家などとしても活躍した寺田寅彦は、かつて「文明が進むほど災害がその激烈の度を増す」と言っていますけども、まさにその通りですよね。
今の電気に頼った生活は急には変えられない、ということを痛感しました。
使いたい家電がどんどん増えていっとる…!しかも消費電力がデカい…。
便利になればなるほど、被害が大きくなるっちゅうことか…!
── 都心なり、他のエリアに避難する方はいなかったのですか?
一部、電気が通っている親戚や知人のところに行った人もいましたが、この地域では住宅自体が被害を受けたわけではないので、他地域に避難した人はほとんどいなかったと思います。避難しても、その先でやっぱり気を使いますよね。やっぱりみんな自宅が一番。自宅が一番癒されるんですよね。
ほとんどの人が在宅避難※1をしたわけですが、とにかく電気が止まっているというのが一番大きな被害でした。
「在宅避難」の肝は、電力ということだ…!
これだけ地域防災がしっかりしている山間部でも不便な長期停電。あなたの地域は…?
── 災害対策本部で実施した支援活動は?
まず電力の復旧に関する情報を災害対策本部(大井青年館)のホワイトボードに書き、随時更新して、住民の皆さんに知らせました。
また、災害対策本部の建物に発電機を持ち込んで、照明やコピー機、照明、電気炊飯器用、洗濯機、スマホの充電設備などの電源にしました。
── 発電機というのは?
ディーゼル発電機です。この地域は農村地帯で、酪農を営んでいる方などもいるので、自宅に発電機を持っている方が結構いたんです。
プロパンガスを利用している地域ですから、何軒かプロパンガス式の発電機をお持ちの方もいました。ガス発電機は軽いですから、持ち運びも簡単です。
一般的な自治体などの備蓄倉庫に入っているのはほとんどガソリン式の発電機ですが、ガソリン式は機械の中に汚れが溜まりやすく、いざという時に使えないこともあるようです。それに、地域全体が停電するとガソリンスタンドの流量計もストップするので、ガソリンを手に入れることが難しくなります。
住民の人たちは炊飯器を持ち込んでいたんだな、電力おじさんスゲー
そして、ガソリン式発電機の盲点…!これ現場でアセると思うわー
── 停電で困っているご家庭のサポートも行われたそうですね。
年齢や体調などの理由で、「食事の準備ができそうもない」という情報が寄せられたお宅に対し、お弁当を届けることにしました。普段は1日10~20食なのが、停電中は60食近く作りました。
食材は備蓄していたものに加え、学校の給食センターの冷蔵庫にあったものを使わせてもらいました。行政の方から「置いておいても保存がきかなくなるから」と、野菜や豆腐などがたくさん提供されたんです。
こうした行政の方からの支援もありましたが、「在宅避難」を軸として、基本は地域が自立して乗り越えてきました。
自主防災がしっかりしている地域だからこそ、乗り越えられた気がする…。
自分が住んでいる地域だったらどうなるんだろう?
※1:「在宅避難」
災害時、倒壊や浸水、土砂崩れ等の危険性がなく身の安全が確保された場合には、そのまま自宅で生活を送ること。